
以前「一人で訪問するのが怖い、その不安が消えるまでの3ヶ月」という記事を書きました。
今日はその続きの話をします。
一人で訪問できるようになった看護師(介護士)が次にぶつかる壁。
それは、時間を守れないという壁です。
しかも厄介なことに、この壁にぶつかる人ほど、ご利用者様からの評判がいい。
だから本人も周りも「問題だ」と気づくのが遅れます。
たとえば、新しく入った看護師(介護士)が1時間で予定していた訪問に毎回1時間20分かけて帰ってくる。
何をしていたのかと聞くと決してサボっていたわけではありません。
✅処置を丁寧にやり直した
✅ご本人の話を最後まで聞いた
✅ご家族の不安に付き合った
✅片付けまで手伝った
ひとつひとつに理由があります。
ご利用者様は喜びます。
「あの看護師さんは本当に親身になってくれる」と言ってくださる。
本人も、いいケアをしたという手応えがある。
それでも私たちは、これを「手際が悪い」「余計なことまでしている」と表現します。
厳しい言い方ですが理由があります。
「たった20分じゃないか」と思われるかもしれません。
私たちも、1回きりならそう思います。
でも、訪問看護は1日に何件も回ります。
1軒で20分超過すれば、その日の残りのご利用者様が全員20分待たされます。
それが積み重なれば、4軒目、5軒目に着く頃には1時間以上のずれになります。
次の訪問が遅れる。
遅れを取り戻せなければ、他のスタッフが代わりに入る。
その人の予定もずれる。
事務所に戻る時間が遅れ、記録が遅れ、翌日の申し送りが遅れる。
つまり、目の前のご利用者様に差し上げた「追加の20分」は、どこかのご利用者様と、どこかのスタッフから借りてきた20分なのです。
そして借りた本人には、その実感がありません。
目の前の方が笑顔になった記憶だけが残り、待たされた方の顔も代わりに走ったスタッフの顔も見えないからです。
「自分はいいことをした」という手応えだけが残るので指摘されるまで問題に気づけない。
ここが一番怖いところだと思っています。
だから私たちは、新しく入ったスタッフにこう伝えます。
「今のあなたの仕事は、1時間でできる100%を見定めることです」
1時間20分かけて120点のケアをすることではありません。
1時間という枠の中で、今日必ずやるべきことは何か、次回に回していいことは何かを判断する。
その見極めこそが訪問看護の専門性であり、病棟との一番大きな違いだと思っています。
病棟では、目の前の患者さんに時間をかけることがほぼそのまま善でした。
在宅は違います。
限られた時間を地域全体にどう配分するか。
その視点を持てたとき訪問看護師は一段階上がります。
とはいえ、入ってすぐに「1時間でできる100%」を見定めろと言われても、無理です。
そこで私たちは、入職後しばらくの期間を、あえて答えを与えない時間にしています。
現場を見て、ご利用者様を見て、先輩スタッフの動きを見る。
手取り足取り教えるのではなく、まず観察してもらう。
この期間は本人にとって少し不安かもしれません。
早く役に立ちたいのに、何も任されない時間はもどかしいものです。
それでも、この時期に見ておいてほしいことがあります。
先輩が、どの話は座って聞き、どの話は玄関先で受け止めて帰るのか。
どこで切り上げ、何を次回に回しているのか。
「この方にはどこまでやるのが適切か」という感覚は教科書でもマニュアルでも身につきません。
何人ものご利用者様と、何人もの先輩の判断を見た経験の蓄積からしか出てこないものです。
ここからは、ご利用者様とご家族に向けて書きます。
「もう帰っちゃうの?」と思われることがあるかもしれません。
もっと話を聞いてほしかった、もう少しいてほしかった、と感じる日もあると思います。
でも、看護師(介護士)が時間どおりに帰るのは冷たいからではありません。
次に待っている方のところへ行くためです。
そして、その「次の方」の立場に明日はあなたがなるかもしれないからです。
時間を守ることは地域全体で在宅療養を支えるための約束事だと考えています。
最後に、ひとつ嬉しい変化をお伝えします。
あるご利用者様は、以前は訪問の時間になっても何も準備せず、看護師(介護士)が来てから一つずつ始めていました。
ところが、訪問時間が安定して決まった時間で回るようになってから変化が起きました。
看護師(介護士)が来る前に自分で新聞をセッティングしておく。
入浴の前に自分で水分をとっておく。
「もうすぐ来るから」と、ご自身で動き始めたのです。
これは、私たちにとって大きな発見でした。
時間を区切ることは、ご利用者様から何かを奪うことではありませんでした。
むしろ、ご本人の生活のリズムを作り「自分でできること」を取り戻すきっかけになっていたのです。
丁寧すぎる訪問は優しさのようでいて、その方が自分でできるはずのことまで引き受けてしまっていたのかもしれません。
1時間の枠を毎回20分はみ出す優しさ。
その日その場では確かに喜ばれます。
でも、続きません。
本人も疲弊しますし、チームは回らなくなります。
1時間の中で最善を尽くし、時間どおりに次へ向かう。
その繰り返しが、何年も続く在宅生活を支えます。
訪問看護への転職を考えている方へ。
もしあなたが「丁寧すぎる」と言われたことがあるなら、それは欠点ではありません。
時間という枠さえ身につけば、大きな強みになります。
私たちは、その枠の作り方を一緒に考えていきたいと思っています。