
今日は私たちの事業所の「書類の出し方」の話をします。
地味なテーマに聞こえるかもしれません。
でも、訪問看護の現場で一番人を苦しめ、一番組織を止めているのは、実はケアの技術ではなく「記録と書類」だと私たちは思っています。
結論から言うと、私たちは今、スタッフに「書類は60点で出してください」と言っています。
真面目な人ほど眉をひそめる言い方だと思います。
なぜそんなルールにしたのか、順を追って書きます。
きっかけは、あるスタッフの書類でした。
期日を過ぎても提出されない。
理由を聞くと「まだ完成していないので」と言う。
ようやく出てきた書類を別のスタッフが確認すると、こう報告が上がってきました。
「内容は入っているんです。でも、何がダメなのかが自分にはわかりません」
これは責める話ではありません。
書いた本人も確認した人も、どちらも真面目にやっている。
それでも「何をもって完成とするか」の基準が人によって違うから、いつまでも終わらない。
書類が遅れると、その先の請求もケアマネジャーさんへの報告も他のスタッフの動きも止まります。
1人の「もう少し良くしたい…」が組織全体の「待ち」になっていました。
訪問看護に来る人は、基本的に真面目です。
だから、書類も「100点にしてから出したい」と考えます。
でも、100点の基準は本人の頭の中にしかありません。
そして本人も、その基準を言葉にできていないことが多い。
「なんとなくまだ足りない気がする」で提出が延びていく。
一方で期日を過ぎた書類は、どれだけ内容が良くてもマイナスです。
ここは厳しいようですが、私たちははっきりそう伝えることにしました。
内容の質と期日は別の評価軸で、期日は「守った」か「守っていない」かしかない。
60点でも期日内に出た書類は、100点でも遅れた書類より価値がある。
組織で働くとは、そういうことだと思っています。
では、どうすれば「完成の基準」を全員で共有できるのか。
管理者がひとつひとつ見て赤を入れるやり方は、すぐに限界が来ます。
管理者がボトルネックになり、結局「管理者が見てくれるのを待つ」時間が増えるだけだからです。
そこで私たちがやったのは記録の確認をAIに任せる仕組みづくりでした。
具体的には、スタッフが情報を「1・2・3」の順番に入力すると、あらかじめ用意したチェック項目に照らして、揃っているところは丸、足りないところは三角で返ってくるようにしました。
合わせて、何を入れればいいかが一目でわかるチェック表とPDFのフォーマットも整えました。
スタッフがやることは順番どおりに入れて、三角のところを直すだけ。
「何をチェックすればいいか」を誰かに聞く必要がなくなりました。
この仕組みができてから、私たちの合言葉は「60点で出して、AIで100点にする」になりました。
まず
この往復を2〜3回すれば、誰が書いても同じ水準の書類になります。
「答えが出る作業」が得意なスタッフは、この流れにすぐ乗りました。
以前は「これをどうするか考えておいて」という抽象的な指示で止まっていた人が「順番に入れて三角を直す」という具体的な手順になった途端、自分から積極的に使うようになったのです。
人の能力が変わったわけではありません。
仕事の渡し方が変わっただけです。
もうひとつ、この仕組みを回して気づいたことがあります。
AIをうまく使えない人には共通点があって、それは「情報が細かすぎる」ことです。
自分の中で100点まで作り込んでから投入しようとする。
すると、本人の解釈がすでに混ざった情報が入るのでAIの返答が本人の期待とズレます。
ズレると「AIは使えない」となって、また自分で抱え込む。
逆に、荒くてもいいから事実を先に入れる人はAIの指摘で抜けに気づき、結果的に短時間で精度の高いものが仕上がります。
100点を目指してから出す人ほど期日を守れないというのは書類だけの話ではなく、AIとの付き合い方でも同じでした。
正直に書くと全員がすぐにこの流れに乗れたわけではありません。
仕組みがあっても「まだ出せない」と抱え込むスタッフはいました。
そのとき私たちが伝えたのは「あなたの書類の質が低いとは言っていない。期日を超えることが、内容と無関係にマイナスなのだ」ということです。
質を否定されたと感じると人は防御的になりますが、評価軸が2つあると理解できれば行動は変えられます。
これは仕組みだけでは解決できない、人が直接言葉で伝えるべき部分だと思っています。
私たちは書類を60点で出せない人を「能力が低い」とは思っていません。
「完成の基準が見えない環境で真面目に頑張っている人」だと思っています。
だから、基準を見えるようにしました。
それだけです。
記録が苦手でも大丈夫です。
私たちの事業所では、何を書けばいいかは仕組みが教えてくれます。
あなたにお願いしたいのは60点で出す勇気だけです。
他の事業所の管理者の方、ケアマネジャーの方へ。
もし「あの人の書類がいつも遅い」と悩んでいるなら、その人を変える前に完成の基準を仕組みにできないか、一度考えてみてください。
私たちの経験が少しでも参考になれば幸いです。